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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
結婚に関して、両親との間に頻繁な書簡の往復があった。その中に紛れこんだような一通の手紙が、伸子を驚かした。父から、母が来る十二月中に出産の予定であること、かねて重症の糖尿病があるため、医師も経過については決して楽観していないこと、この際伸子が彼らの手元にいないのを遺憾とすること、などを告げて来たのであった。伸子は、当惑した。彼女は両親を愛していた。彼らが自分を求めるのを、とても冷然としりぞけることはできなかった。同時に、佃との生活に十分未練があった。佃は、今、C大学を去ることは不可能な状態であった。もし帰るとすれば、伸子は独りで帰らなければならないのであった。
彼女は、いろいろ考えた末、到頭帰国することにした。自分と佃との別れは、これが最後となるのではない。けれども、母の命を誰が予言できるだろう。
伸子は、無理をして船室をとった。十二月の荒い太平洋を横切って進みながら、彼女は自分を待っているだろう母と、外国へ遺して来た佃のこととを思いつづけた。淋しい航海であった。日本へ近づくにつれ、不幸が待っていはしまいかという不安が募った。横浜に入港する二日前、伸子は入港時間を知らせかたがた、安否を問い合せる無線電信を打った。