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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

四

多計代は、手をとられたまま、気を許さず、じろじろ伸子の顔や髪を眺めていたが、やがて、

「だがまさか、大学にいるというのは嘘じゃあるまいね」

と云った。

「え?」

「いいえね、佃というのは、洗濯屋だって云った人があるからさ」

伸子は、深い憤りを感じながら、これには真面目に対手されず、

「何とも分らなくってよ」

と答えた。

「若しかすると親類じゅうの洗濯ものを買いしめる魂胆かもしれなくてよ」

四

伸子は、自分が変って帰って来たのを感じた。伸子の心と生活の中には佃というものが加わった。

両親の方でも何かさっぱりしないものがあって、元の伸子に対するような心持になり切れない。そういう日が続いた。

日が経つにつれ、佃に対して多計代の感情が落着かず、混雑しているのも、前後の事情に照せば無理ないと、伸子にも思えるようになって来た。伸子が手紙で云ってよこしたこと、佐々が話すこと、それらは、新聞だのその他から彼女の耳に入る噂とは、全然性質が反対なものであった。自分の目で佃を見たことのない多計代が、そのどれについて彼を判断してよいか分らず、彼女に知れているのは良人の好人物さや伸子の世間見ずで、一本気な点ばかりであって見れば、つい、一番どうとも想像し易い佃を、不信と悪意とで考える方に傾くのも、一応止むを得ない勢いであったろう。