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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

石炭殻がザクリ、ザクリと大きな音を立てた。

「だれだい」

「私」

ガラリと窓が開き、つや子が、

「お姉ちゃまあ」

と目を覗かせたそばに多計代の縞の羽織が見えた。

「保さんは?」

「フレイムのところでしきりに悲観しているわ、シクラメンが腐るって――」

つや子が、

「ね、お母ちゃま、いいでしょう? 大丈夫僕もういいのよ、ねえ、お母ちゃま!」

と云うのが聞えた。つや子は、兄ばかりの中にいて、自分のことを、僕、僕と云うのであった。

「駄目ですよ、また細谷さんを呼ぶようになりますよ」

「――なに駄々こねてるの」

「外へ出たいって云うのさ、まだ起きて二日にしきゃならないのに、外へなんか出るとまたすぐごほん、ごほんになってしまうのに――しようのない喘息やさん」

伸子は、ぶらぶらそこから女中部屋の横へ出た。障子が麗らかに開け放され、すぐ窓際に、女中が向い合いで縫物をしていた。二人ともうつむいて、焦茶地に黒く細かい絣の銘仙男物の着物と羽織を縫っている。それを見ると、伸子は制している感情が、その衣類に向って迸るような動揺を感じた。佃の着物であった。彼の帰る支度にそうやっていそいで縫っている。