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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
戸棚をあけさせた。
「それ……その縞のと八丈の」
女中に夜具を運び出させ、伸子は洗面所に行った。電燈をつけ、鏡にうつる自分の顔を見守りながら手のひらで髪を撫で上げ、彼女は、寂しいような滅入ったような心持を感じた。これが、あんなに待ちわびた彼を迎えた心持であろうか。囲りに人が多すぎ、気疲れがし、伸子は有頂天な悦びよりもむしろ憂鬱を感じた。彼女は電気を消した。そして洗面所を出た。その時、彼方の部屋の扉が開く音が大きくした。体を半分廊下へ出し、うつむいて上靴を穿こうとしている佃の姿が伸子のところから見えた。
「和一郎、一緒に行ってお上げ」
「いいえ、一人でわかります――さっきも参りましたから……え? 大丈夫です……」
佃は、まるで伸子がそこに立っているのや、彼女の心にある欲望を透視しているように、まっすぐ暗い廊下をこちらに向って歩いてきた。伸子は、一瞬間前のしょぼくない自分を忘れた。彼女は嬉しくてたまらない悪戯小僧のように笑いを殺し、あたりの暗闇まで一緒に脈打って感じられる程胸をどきつかせながら、そっと隅の本棚の側にかくれて立った。
七
一週間ばかり後、伸子は佃と、彼の故郷の田舎へ帰った。