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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
ほらほら」
多計代は、浴槽に浸っていた。ふざけ過ぎるつや子に、時々、
「そう騒いじゃ駄目ですよ」
と云いながら、伸子にぼつぼつ話す。佃の批評であった。先夜伸子の留守中、不快ないきさつがあってから、彼女は、彼に対する遠慮や最後の敬意を失ったように見えた。彼女が佃に向って、または彼について話す時には、定って軽侮や恩恵の意識のまじった、特別な調子ができた。彼女は、今も鬢櫛で、濡れた後れ毛をかきあげながら云った。
「まあいずれにせよ、人間というものは万全な者はないからね、互に許し合うとしても……私はあの人を見て、ますます疑問に思うようになったよ――三十――幾つかい? 五か六だろう――とにかくその年まで純潔でいたなんて――何だか」
伸子は、
「そっち向いて、そっち向いて」
とつや子に背なかを向けさせた。そして、苦々しげに云った。
「そんな話……今やめましょうよ」
多計代は上り湯を汲み出して、顔を洗いながら、手拭の合間から乱れた声で云った。
「――考えて見ると、お前も全く女らしい人だね、好いとなるとめくらだもの――二人いるところを見ても、痛々しいくらいお前の方が余計愛しているのが解るよ……それでよければ何よりだがね――」