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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
「詩らしいですね――何かに引用してあるんですか」
横田は伸子を顧み、
「どうも西洋の学者は、何ぞと云うと直ぐ羅典や希臘をかつぎ出すから厄介です」
と笑った。
「おいそぎですか」
「いや、いそぎません」
「じゃあお預りして置きます」
また話が途切れ、居心地わるくなった。横田は、
「どうぞよろしく」
と程なく帰った。
見送って再び部屋に戻った。佃は横田の置いて行った紙片を手にとり、立ったまま見ていたが、ふんと云うような表情で、手近い本棚にのせた。伸子は何だか厭な気がした。
「大丈夫? そんなところへ置いて」
「大丈夫ですよ」
佃は伸子がそんな注意を払うのさえ不快らしく、云った。
「いつ頃から来ていたの?」
「なぜ?」
わざとらしい訊きかえしが、殆どひとりでに伸子の唇を辷り出た。
「なぜって――また君の邪魔をしたと思うからですよ、下らないことっきゃ話もないのに」
――伸子は皮肉な顔をして、肩をゆすった。彼女は意地わるい心持になった。佃は、彼女の友達が来ても、恐らく唯の一度もと云ってよいくらい、愉快な対手となった例がなかった。彼が席に現れると来た人は帰り支度をする。女の人でも、それは同じであった。