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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
五
役割を演じつづけるだろう。
伸子は絶望と恐怖とで涙をこぼした。永い、しずかな、地にもぐり込みたいようにそれは悲しい涙であった。
五
英国皇儲の来遊は一般的な好意を呼び起していた。馬場先に大きな歓迎門ができた。夜はアーク燈の光で、ぞろぞろ通る人間も、お濠の松の枝ぶりも、いつもと違うように見えた。佃の老父はその賑わいを見物してから、田舎の生活に役だつ、実用的な手土産をもって帰国した。
窓をあけ放して置くと、夜気とともに、春の土のにおいや若葉の匂いが、明るい部屋に流れ込んだ。
老人が去ったあと、宵は長く感じられた。佃は、そういう夜、部屋の真中にあぐらをかいて、外国から来た書籍包みを開いていた。伸子はそばで、解きすてられた紐や紙を始末していた。界隈がしずかなので、彼女がたたむ厚い包紙の、ゴワゴワいう音ばかり耳立った。
「――あちらの机に送り状があるから、とって来てください」
伸子はそれをとって来た。彼は一旦テーブルにつみ上げた本を、一冊ずつその送り状とてらし合せ始めた。伸子はじっとその様子を見ていたが、
「――ねえ」
と声をかけた。彼女はこの呼びかけを、なみなみならぬ心持でしたのであったが、佃は手許の仕事に気をとられ、うっかりした調子で答えた。