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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

「何ですか」

「相談があるの」

「なんです」

「ねえ……夫婦の生活というものはこういう形しかないもの?」

「さあ……、どう云う意味で云うのか知らないが、そうでしょう」

「もっと自由じゃいけないのかしらん」

佃は本を手にとり上げながら、警戒するように伸子の顔を見た。

「なぜ?――何か違った形が必要なんですか」

「私――当分私ども別々に暮して見たらどうかと、この間から思っているの」

「私はちっともそんなことは必要だと思いません」

斬りすてるような語勢であった。

「だから御相談なのよ、お父さんがお帰りになってから、ゆっくり相談していただきたいと思っていたの」

以前から、別々に生活して見るのもよいのではあるまいか、と思ったのは屡々であった。最近、彼女には、そうでもして見るしか新生活のひらけようなく感じられて来た。自分たち夫婦の、生活態度の違いを、抽象的に批評したり主張したり、そんなことで実生活が寸毫も変化しないことを、伸子は経験で知った。佃は生活のあいてとして、そういう種類の人ではなかった。彼は、独特な消極さで、強い生き手であった。

生活を一緒にしていて心持を影響されまいなどと云うのは、できない相談であった。