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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
二
発車する汽車が向う側に入っていて、その方の見送りや貨物の積込みやで雑沓する中に、数人の出迎え人が、今停車しようとするこちらの客車一つ一つに注目して佇んでいた。その群の中に、伸子は思いがけない横顔を認めた気がした。佃そっくりの、外套を着て山高をかぶった男が、人待ち顔に立っている。彼女の着く時間は手紙で知らしてあった。伸子は、体じゅう、ぽっと熱くなったほど感情を動かされた。彼が来てくれたのだろうか? 彼だろうか? 彼が来てくれるとは思いがけない! 伸子は一層窓からのり出した。彼女は、その佃らしい横顔に向って、合図のつもりで手を振った。が、伸子の目的の人の注意は引かず、赤帽が、まだ惰力で辷っている列車の窓下に駈けつけて来た。
「何箇です? これだけですか」
伸子は、声の届かないところに佇んでいる、その人影を見失うまいとその方に気をとられながら、トランクを渡した。
「何番?」
「二十八番」
足早に、伸子はその人が立っている柱のところまで進んだ。いよいよ夫かと思った時、ひどく動悸がし、口をしゃんと結んでいられないほどであった。礼の言葉をもどかしく制し、一直線に三尺ばかりの距離まで来て、改めてその顔を見なおすと彼女は、変な、泣笑いのような皺を口に漂わし、ふいとわきに逸れた。