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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

「まだ一二ヵ月あるんでしょう、まだすっかりきまったわけでもないんだろうから」

伸子は、水をとりかえた硝子壜を日向へ置いた。

「……あなた、阪部さんをどうお思いになること」

佃は、伸子の真意を読もうとするような用心深い表情をした。

「あなたの思う通りでは、どう?」

「さあ、相変らずあの男でしょう」

「あなたの心持、変らない? 先と」

佃は、案外そうな、咎めるような眼付でききかえした。

「どうしてです?」

伸子は、先日阪部を二人で訪問してから、友情の一部に変化が生じかけているのを感じていた。彼女には、それが三人のために遺憾であった。一半は自分の責任であるという感情もあった。彼女は佃にぶちまけて、あるなら不快を洩して欲しかったのであった。

「本当に今まで通りなの」

「そうでないわけがないでしょう」

四月の新学期から、佃は出勤し始めた。

初めて出かける朝、去年の暮頃のままの服装で彼が靴をはく後に立って見送りつつ、伸子は感に打たれた。佃にとっても、伸子にとっても、彼の病気は一時的なしかもただの病気でしかなかった。病気だけよくなった。元の彼になった。見馴れた制服を着た元のままの彼に。