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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
「御隠居様、あれは古田さんにお売りなさったんじゃありませんか」
祖母は意外に、口を尖らし、
「俺がかあ?」
と、呆れた。
「何して俺がそんなことすべっちぇ!」
「――困るなあ」
与次郎は伸子に当惑した笑顔を向けた。
「本当に御隠居様がお売りんなりました。古田の隠居が、こりゃいい茶壺だと云ったら、東京さ持って行くわけにも行くめからって、譲ってやんなすった。――五円札とひきかえに私が届けたんだから、間違いございません」
「そうか――俺そげえに耄碌したべえか――俺ほんとに売った覚えなんぞ無えことよしか……」
与次郎は自分が疑われているのを知り、少し荒っぽく、
「じゃあ、私が使いに行ったんですから、五円いただいて行って取返して来ましょう」
「……そうさなあ……」
与次郎が、うやむやに畑へかえると、後で、祖母は机のところまで伸子を追いかけて来た。
「俺ら、ほんにやんだ(厭だ)ごんだ。――耄碌したにつけ込んで、何するか知れたこってねえ。こないださがした銅鍋だって、俺が山本へ売ったちゅうごんだよ」
と訴えるのであった。
「お祖母さま。耄碌は年のせいで仕方ないんだから安心して耄碌しちまった方がいいのよ。