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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
本当に勇気のある人は温和だ。自分にも、どうかその温和の百分の一を授かり、佃と最後の会見をしたい。伸子はそう思いながら床についた。
翌朝早く佃から電話で、伸子は起された。
「赤坂からお電話」
という声をきくと、瞼がまだ開ききらない先、いやな心持が胸を掠めるのを感じた。気持を整える余裕を得るため、着物をなおし、板の間へ出て行った。
「もしもし」
いきなり、
「もしもし、いつ帰ります?」
と、急性な、喉の乾きついたような佃の声が鼓膜を刺戟した。
「――今日ジョンストンさんがいらっしゃるの、お茶に。――それがすんでから――」
「いそがしいんですか」
「――……」
「そんなにいそがしいなら、いつでもすきな時に帰っていらっしゃい」
ガチャンと受話機をかけた音がした。
伸子は眠りなおしもできず、そのまま起きた。一時間も経たないうち、また、赤坂から電話が来た。
「もしもし、伸子さんですか」
今度は佃でなく、佃の親しい友人の織田の低い平らな声であった。何と云ってよいか判らず黙っていた。
「いつ頃帰りますか」
「多分八時頃になるでしょうと思うけれど――あなた――そこにいらっしゃるの?」
「ええ、昨夜泊ったんです――ではどうぞ」