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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
十
しりきれとんぼにぽつんと電話が切れた。佃と織田と二人の男が、「じゃ今度は俺がかけてきてやろう」などと落着かず立って話している部屋の光景を思うと異様に物々しかった。伸子は愧しく思った。
十
赤坂へ行ったのは九時過であった。
表の角から、人っ子一人通らない早寝の暗い横通りを歩いて行くと、竹垣の透間から佃の部屋の灯が煌々と往来まで洩れていた。単衣の肩が薄寒いように感じつつそれを眺め、伸子は暗い格子をあけた。佃が弦の切れたような勢いでとび出して来た。
「伸子?」
「――ただいま」
彼は、伸子が下駄をぬぐのを待ちきれないように両手を執り、ぐんぐんつき当りの燈火のない部屋へ彼女をつれこんだ。伸子は、暗闇でまごつき、椅子につき当り、それにつかまった。佃はなお手をはなさず、片腕に彼女を抱えるようにしながら一つの椅子をずらしそれにかけると、狂気のような力で彼女を抱き締めた。彼は、
「Do you still love me?」
と云うなり、子供のように声をあげて泣きだした。彼は泣きながら伸子の頬に自分の頬をすりつけた。手を撫で、肩を撫で、髪を撫で、顫える大きい掌で圧し潰すように彼女の体じゅうを撫で廻した。