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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
「大概狼のような者達ばかりです」
と短く断言した。伸子は、思わずほほえんだ。「狼」――。
彼女は適度な散歩後の気軽な心持で、自分の室へ帰って来た。馴れた無頓着で、いつも通り鍵を右に廻した。カチリ、変な抵抗が手先に伝わり、扉は開かない。伸子は屈んで鍵穴を見た。ついで念のため把手を廻して見た。戸は難なく内側に開いた。錠は掛っていなかったのだ。女中でも掃除に来ているのだろうか。――
伸子は、怪しみながら客間に歩み入ってあたりを見廻した。すると、全く思い設けない佐々の声が寝室の中から彼女を呼び迎えた。
「伸子か?」
伸子は、今までの爽やかに暢々した気分が一時に飛び去る愕きを感じた。佐々は今朝九時に彼女と佃と三人で旅館を出た。夕刻まで帰る筈がなかったのに。――伸子は、急いでそちらへ行った。
「どうなすったの?」
佐々は、寝台の上に蒼ざめた顔で半身起き上っていた。彼は伸子を見て、いつもの輝いた暖かい笑顔をしようとした。が、よほど気分が悪いと見え、微笑は中途で消えた。父の眼に現れている不安を認め、伸子も不安な心配な心持になった。彼女は、知らなかったとは云え自分が公園でぶらぶらいい心持に時間潰しをしていたのが済まないようになった。