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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

「今、生憎ほかにお稽古の方が見えておりますのですよ、どんな御用ですか」

午後が暇なので招かれたと思っていた伸子はやや意外であった。

「今日は木曜日でしょう?」

「ええ確かに……」

「では、恐れ入りますが一寸ミス・プラットに私が来たとおっしゃって下さいませんか。お差し支えだったら、また出なおしてもかまいませんから」

入れ違いに日本の羽織を羽織ったミス・プラットがいそぎ足で出て来た。彼女は、伸子が何か云う時を与えず挨拶し、自分の居間に案内した。

「もう三十分ばかりですから失礼ですが待っていて下さるでしょう?」

彼女は書棚を覗いた。そしてオウスティンの普及版を一冊とり出して伸子にあてがった。

「これでも読んでいて下さい。では一寸御免なさいね」

ミス・プラットの部屋の二つの大窓から、大学構内の空地の一部と、大学総長の邸宅の側面が眺められた。長椅子や寝台の上には小綺麗な更紗や小蒲団があって、落着いてさっぱりした部屋の飾りとなっている。伸子は、揺椅子にかけ、あずけられた本を読み出した。

やがて廊下で別れを告げる声、こちらへ来るミス・プラットの衣擦れの音。

やっと二人の間で話が心持よく弾みかけると、また稽古の人が来た。