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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

その夕方、京子は下の温泉村に用事があって外出したが、その帰り道、たそがれ時のほの暗い木下道で、新一の姿を見た。新一は何かに憑かれたように道もない茂みの中へ突き進んで行った。夢遊病者のような感じであった。京子はその時の唯ならぬ様子を、こんな風に語った。

「私が呼びかけようとしますと、新一さんは手を上げて私が物を云うのを制するように見えました。そして、一心に前の方を見つめたまま、道もない茂みの中へ入って行くのです。もう暗くてよくは分りませんでしたが、新一さんは誰かのあとを追っていたのに違いありません。茂みの奥にガサガサという物音がしていたようです。誰かがそこを這って行ったのです」

「這って行ったのですか」妙な云い方だったので、聞き返すと、京子はハッとしたように脅えた眼をみはった。

「エエ、そのものは茂みの底を這っているように感じられたのです。蛇かなんぞのように」

新一のあとを追おうか追うまいかと躊躇しているうちに、新一の姿は木下闇の茂みの中へ溶けるように消えて行った。ガサガサという物音もしなくなって、じっとその場にたたずんでいると、何か夢でも見たような異様な感じに打たれた。