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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

少佐はそれを拾い上げた。万年筆である。落ちてから大して日数がたっているとも見えぬオノト万年筆である。少佐は新一が胸のポケットにはさんでいたのも確かオノトであったことを思い出した。そして、俄かに緊張した面持になって、あたりを見廻すのであった。数日前新一の捜索が行われた時、人々は別荘よりも下の山中から温泉村にかけての地域を主として探し廻り、別荘よりも上のこの辺は見逃されていたのである。

少佐の鋭い眼は草原の一方の端に注がれた。そこが急な坂になって、土に何かの辷ったようなあとがついていたからである。近づいてよく見ると、土の斜面に靴底の一部がハッキリ印せられていることが分った。

その斜面を降りて、注意深く茂みを分けて進んで行った。そして、道なき道を五六分も辿った時、少佐はハッとしたように立ち止って聴き耳を立てた。何か幽かに音がする。動物の唸り声か、イヤ、人のうめき声のようでもある。少佐はステッキで足下を突き試みながら、注意深く静かに声のする方へ進んで行った。

五六歩進むと、ステッキの先が固いものに当って音がした。蹲んで草を分けて見ると、太い松丸太が四五本、縄で縛って、蓋のように置いてある。