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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

彼女の健全な常識がかかる非論理を承認し兼ねたのである。

しかし望月憲兵少佐は、確信に満ちた静かな声で説明をはじめた。地下室の冷たい空気に滲み通るようなその低い声が、徐々に京子の魂を圧倒して行くように見えた。

「それは月の光があなたの目を眩ましたのです。月光の妖術とでもいいますか、犯人の巧緻を極めた手品にすぎなかったのです。

わたしは数学の計算によって、あてはまらないものを一つ一つ取除き、そのあとに残ったただ一つのものを、表から裏から側面から吟味したのです。そしてこうでなくてはならないという最終の論理を組立てたのです。

発いて見れば何でもない事です。一つの幻術『目くらまし』に過ぎないのです。しかしこれを考えついた犯人の惨憺たる苦心と執念には、何か人をゾッとさせるものがあります。

犯人は何十日という間、夜も昼もこの事ばかり考えていたに違いない。そして一つの不可能を造りあげた。被害者が月光の窓で救いを求める。そのとき犯人はそこから十間も二十間も離れた場所にいて、犯罪の現場に駈けつける。一人ではない、多数の人と一緒にです。駈けつけると、被害者はすでに傷つけられ瀕死の状態に陥っていた。