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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
犯人が被害者に手をかける隙は少しもなかった。完全無欠のアリバイですね」
「そうです。完全無欠のアリバイです。それがどうしてそうでないとおっしゃるのでしょうか」
京子は青ざめた顔を固くして、最後の抵抗を試みた。もう無駄だということは彼女にもほとんど分っていたが、何かしら非常な焦躁にかられて、黙っているわけには行かなかったのである。少佐は静かにつづける。
「それが犯人の考え出した巧みな目くらましだからです。犯罪はあのときに行われたのではない。もっと以前、あなたと新一君とが月光の庭で出会うよりも前に、犯罪はすでに行われ、博士は傷つけられていたのです」
「でも、あんなひどい傷を負わされた博士が、どうして窓から救いを求めることができたのでしょう。それは不可能です。そんなことは考えられません。それに……」京子はギョッとしたように目を瞠った。「もしあなたのおっしゃる通りだとしますと、あの時、博士は自分を傷つけた犯人に向かって、救いをお求めになったことになるではありませんか」
「そう、一応そういう事になる。そこに犯人の恐るべき幻術があったのです。京子さん、あなたは月の光にまどわされたのですよ。