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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

窓の下の庭園には絶え間なく憲兵の立番がある。ドアの外の廊下にも二人以上の見張り番が頑張って、蟻の這入る隙間もない。

土地の警察署も傍観していたわけではない。別荘のまわりには絶えず警官を巡廻させ、一方温泉村をはじめ附近の部落には綿密な捜査を行うなど、及ぶ限りの手段を尽したにも拘らず、犯人を発見することが出来なかったばかりでなく、敵はこの厳重な警戒網を潜って、屡々設計室を襲いさえしたのである。

ある時は、夜の間に設計室の窓ガラスが切り破られ、留金を外して何者かが室内に侵入した形跡が発見せられた。又ある時は、廊下に寝ずの番をしていた憲兵が、多量の睡眠剤を呑まされて、明け方まで前後不覚に熟睡していたこともあった。睡眠剤は宵のうちに炊事係の村の娘によって運ばれた紅茶の中に混入されていたことが分ったが、それが何者によって、いつの間に投入せられたかは全く不明であった。

だが、老博士の例の折鞄はその都度安全であった。新一がその鞄の置場所を絶えず変えることに精根を尽していたからである。金庫はもう頼りにならなかったので、彼は毎日のように違った隠し場所を選んで、重要書類の安全を計った。