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かちうんまけうん

勝ち運負け運

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,262 字 · 243 页

青空文庫

偉人の伝記を見ると、三つ四つの頃のことを覚えているぜ」

「然うさな。学校へ上らない頃のことゝいうと……成程、多少覚えているよ」

「努力して見給え。遡って思い出せるほど、偉人の資格があるんだ。目を瞑って、よく考えて見給え」

「よし/\、君と豊子が僕の家の縁側で綾取りをしていた時……」

「君、君」

「うむ?」

「茶碗が危い」

「大丈夫だ」

「目を開いている方が宜い」

「君と豊子が……」

「君自身のことの方が宜いんだよ」

「僕自身のことだけれど、君と豊子が僕の家の縁側で……」

「君」

「オホヽヽヽ」

と妻が笑い出したので、菊太郎君は目を半眼に見開いた。僕の注意が漸く分ったのらしい。

「何だい? 幽香子」

と僕は薄氷の気味だった。

「私、お話のお邪魔になるといけませんから、下へ参りますわ」

「一向構わないよ」

「でも」

「宜いじゃないか?」

「いゝえ」

「お前がいる方が弾むんだよ」

「それじゃ伺わせていただきましょう。丁度奥さまもお見えになったようですから」

「妻が来るんですか?」

と菊太郎君はもう気が散ってしまった。

「はあ。この通り。オホヽヽヽ」

と幽香子は帯留の金具を押えて見せて、急いで下りて行った。