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かちうんまけうん

勝ち運負け運

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,262 字 · 243 页

青空文庫

何処かの若い奥さんが時々振り返って僕の顔を見る。僕に興味を持っているらしい。菊太郎君でなくて妻と一緒だったから、うっかり答礼は出来ない。しかし気になるので、弁解のために、

「幽香子や、どうしたんだろうね? あの奥さんは僕の顔ばかり見ている」

と予め自首して置いた。主人が好男子だと細君は心配が絶えない。

「後ろよ」

「何?」

「あなたの二つ三つ後ろよ」

「後ろが何うした?」

「蒲田の男優が二人来ているのよ」

と妻は序をもって見返った。

「ふうむ」

「あなたなんかとは何処か違いますわ」

「成程」

「己惚れちゃ駄目よ。あなたをジロ/\見る女なんかないんですから」

「分ったよ」

と僕は自分の誤解に気がついた。妻がズケ/\言ったのは、丁度好い機会に僕を窘めてくれたのだった。その必要があればこそだ。自信が強いと、何うしても釣り込まれる。始終気が立っている。自分の外には問題になるものがないと思っているから、つい勘違いをする。事情止むを得ない。

当時、僕は豊子さんについても、こういう調子で認識を誤っていたのである。先ずもって大丈夫の積りでいたら、突然お断りを食ったから慌てた。学校の成績が悪いから問題にしないと言う。