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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

その内、赤いのは、恒川氏自身、風船男の死骸の歯型を取って、持参したものだ。

「同じのがありますか」

仰臥したまま、明智がいらだたしくたずねる。

恒川氏は、三つの歯型を、あれこれと見くらべていたが、

「ありません。三つが三つとも、全く違った歯型です。一目で分ります」

と、やや失望して答えた。

そのあとを、文代さんと小林少年が、熱心に見くらべてみたが、答えは同じことだ。一致する歯型は一つもない。

「で、この石膏の方の歯型は、一体誰のものですか」

警部が、大方は察しながら、尋ねた。

「今、小林君が持って来たのは、岡田道彦の歯型です。小林君が二日がかりで、岡田が歯医者に通っていたことを探り出し、その医者を探して、やっと手に入れたものです」

「で、あと一つは?」

「それが、真犯人の歯型です」

「エ、真犯人の歯型? あなたは、真犯人を知っていたのですか。一体どうして手に入れたのです」

恒川氏は、益々意外な明智の言葉に、あっけにとられてしまった。

「僕が三谷君と一緒に、青山の空家を調べたことは、御存じでしょう。例の倭文子さんが幽閉された、賊の住家です」

明智が説明した。

「それは聞いてますが、……」