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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
余りの不思議さに、警部は、ワラ人形の上にしゃがみ込んで、その胸のあたりを、つくづく眺めた。
「やっぱりそうだ」
確に、ワラが一寸ばかり切れ込んで、短剣の刺さったあとを示している。
「もっと、よくごらんなさい」
明智がそばから声をかける。
よく見よとは、一体何を? 不審に思ってワラ人形の傷口をボンヤリ眺めていると、その傷口から何か黒いものがにじみ出して来た。
その黒いものが、紙のこげる様にジリジリとひろがって行く。
「アア血だ!」
黒いのではない。毒々しい真赤な色だ。夕暗のために、それが黒く見えたのだ。
ワラ人形は、胸を刺されて、真赤な血を流しているのだ。
恒川氏は、傷口に触った指を、目の前に持って来て、窓の光にすかして見た。案の定、指にはベットリ血がついている。
「ハハハハハ、イヤ、何でもないです。ただちょっと、お芝居を本当らしくする為に、ワラ人形の胸に、赤インキを入れたゴムの袋を、しのばせておいたのですよ。しかし、これで、ワラ人形の小川正一が胸を刺されたことは、ハッキリお分りになるでしょう」
明智が、笑いながら説明した。
すると、やっぱり、あの短剣は幻覚ではなかったのだ。