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ちきゅうとうなん

地球盗難

海野 十三

「ラヂオ科学」1936(昭和11)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,072 字 · 168 页

青空文庫

そしてスルスルと幹を攀じのぼっていった。やがて武夫の姿は繁った葉がくれに見えなくなった。

「どうも変だなア。――」

と、声だけが上から落ちてきた。

「変だって? どうしたのオ。――」

とお美代は上をみあげて、声をはりあげた。頸の骨が痛いほど、仰向いて……。

「いま下りてゆくよオ――」

と上からまた声がした。

ガサゴソと葉ずれの声がして、武夫の姿が梢の隙間から、すこし現れてきた。

「なにが変なの。早くいってよ、あたし恐くなっちゃったわ」

そうお美代が云うと、武夫は幹に抱きついたまま、顔を下へ向けながら、

「恐いことじゃないよ。……あのネ、このサイカチの木が変なのさ。甘汁の出る割れ目が方々にあるんだけれど、汁はみな綺麗に嘗めてあるんだよ。そして甲虫が一匹もいないんだ。どうだい、変だろう。甘汁をこんなに綺麗に嘗めたやつは何だろう」

お美代はソッとあたりの草叢を見まわした。もしや蛇かなんかが、その辺にいるのではないかしらと思って……。しかしそんなものもいない様子だった。

「そんな変な木はよして、あっちの方のサイカチを探してみない」

「うん、そうしよう。……」

と、武夫はすぐに返事をしたが、どうしたものか、なかなか木から降りて来ようとはしなかった。