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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

僕は……」

「自分でそうおっしゃるんだから、恐くないわ。今迄男の方を、恐いと思った事なんか一度もないわ」

「それが間違いだったという事、やがて気がつくかも知れない」

「うふふ……」

冴子は、信吉には意味の判らぬ笑いを笑って、

「――あたし今迄人を好きになった事がないのよ。お友達なんか一人も出来ない」

「つまらないだろう?」

「何もかも……。軍人がはびこるし、戦争なんか始ったおかげで、何もしたい事出来ないわ。こんな事言うと、非国民みたいだけど、あたし、みんなの様に夢中になれないの」

「したいことって、どんな事……?」

「考えてみたらないのね。芝居もあんまり好きじゃないわ。才能がないからだめ。薦められて女優になったけれど、どうせ大女優になれっこないんですもの」

「でも、一生懸命じゃないか、舞台では……」

本当に信吉にはそう見えたのだ。

「学芸会へ出ているようなものよ。学芸会はみんな鼻の上に汗をためてるわ。それだけよ。女優なんかよそうかしら。人生ってつまらないのね」

「やがて、変るさ」

もう五本煙草をつけていた。

「そうかしら」

「心細い声を出すなよ。僕が変えてやろうか」

「おや、おや」