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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

上演ずれのした大家になると、自作の舞台を見るのも億劫になっている。書斎で描いたイメージが舞台で歪められているのを見ることが、たまらないという理由もあろう。人一倍自尊心の強い信吉はさすがにそれを知っていたから、いそいそと上京して来た自分を内心軽蔑気味であったが、けれどやはり大阪にじっとして居られなかったのは、実はこんどの芝居は信吉にとっては、はじめての上演だったからだ。ありていに言えば、劇団の脚本に当選した脚本なのである。昨日までは全くの無名に過ぎなかったのだ。

もっとも彼はこの上京には口実をつけていた。上演のよろこびに有頂天になって出て来たのではない。その脚本が全部関西弁で書かれていたので、その脚本を上演する「演劇集団」の俳優にそれを教えるという名目である。

「有名な俳優と口を利けるということが、それ程ぞくぞくと嬉しいのか」

そう自嘲しながら、信吉が第四五三号室で眼を覚ましたのは、もう正午過ぎであった。

地下室のグリルで食事を済ませると、信吉は、ロビイへ新聞を取りに行った。

が、新聞は一つもなかった。五人の先客が、それぞれ新聞をひろげて見ていた。なかなか空きそうにない。