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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
うれし涙ときいたからではない。
悲しくて泣いた涙でも、うれしくて出した涙でも、信吉にとっては変りはない。
「会えてうれしかったから、泣いたのよ……」
と、言われれば、たいていの男はよろこぶだろう。が、信吉はかえって自責の辛さをチクチクと感ずるのだ――。
これは一体何だろう……?
純情、感動、美、真実――そういったものを、信吉は相手から感ずる。涙を見て感ずる。そして、信吉はあたかも美しい景色や、美しい画を前にしてそこから迫って来る感動に一種当惑を感ずるように、当惑するのである。信吉はその時自分の醜さに狼狽するのである。感動を強いる対象と感動しない自分、――その二つの間の距離に苛立つのである。孤独というやつだ。
ベッドの端に、信吉と並んで掛けると、伊都子は言った。
「あたしは自分のしたいと思うことは、何でもしてみなくっちゃ、気が済まない性分なの。――汽車に乗ってると、無性にあなたに会いたくなったの。こんないやな男と結婚しなくちゃならないのかと、思って、許嫁の顔を見ていると、余計あなたに会いたくなったの。許嫁、すっかり旦那気取りなの。あなたのこと、嫉妬して、くどくどときくのよ。