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しっちょうき
失蝶記
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」文藝春秋新社、1959(昭和34)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,072 字 · 44 页
私は暫く考えていました。
「真壁のうしろには仙台の力がある」と私は念を押しました、「ほかに手段がないとしても、真壁をやったばあい仙台がどう出るか、奥羽連合が黙っているかどうか、その点のみとおしはどうなんだ」
「わからない」杉永は答えました、「しかし近いうちに討幕の勅命が出るという噂もあり、奥羽連合の結束もぐらつきだしたようだ、真壁を失ったぐらいで、仙台が直接行動に出るとは思えない」
「それは確実なことか」
「こういう情勢の中では、確実だと云えることなどは一つもないだろう、いずれにせよ、ここはまず断行することが先だと思う」
私は立ちあがって縁側へ出ました。
――どうする。
心の中で私は自分に問いかけました。母屋とその隠居所のあいだに槇の生垣があり、槇の枝には白っぽい黄色な若葉が、そろって活々と伸びている。また夏が来るな、ぼんやりそう思いながら、私は心をきめ、元の席へ戻って坐りました。
「それはおれがやろう」と私は云いました、「真壁を斬るのはおれの役だ」
「いや」と私は手をあげ、なにか書こうとする杉永を制しました、「真壁をやったら名のって出なければならない、私怨だと云って自首して出れば、罪はその一人に限られるし、仙台も干渉することはできないだろう、おれはこんな不具になってほかの役には立たないが、この役なら間違いなくやっ