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きょうふおう

恐怖王

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页

青空文庫

「ゴリラは白状したでしょうか。新聞にはそのことが何も出ていませんが」

怪人物は椅子にかけると、何の前置きもなく初めた。

「何も云わないのです。共犯者のことも云わないし、自分の名前さえ白状しないのです。ただ、野獣の様にあばれ廻るばかりで、手におえないのです。とうとう、警察でも持て余して、動物を入れる檻の中へとじこめたということです」

蘭堂は聞き知っているままを答えた。

「そんなにあばれるんですか。あいつが」

「本当のゴリラみたいに、食いついたり、引かいたりするんだそうです。巡査が腕に食いつかれて、ひどい怪我をしたということです」

「そうですか、じゃ、やっぱりあいつかも知れない」

黒瀬は思わせぶりに云った。

「エ、あいつとおっしゃると? あなたはあのゴリラについて何か御存じなのですか」

蘭堂は聞き返さないではいられなかった。

「エエ、お話の様子では、どうも僕の知っている奴らしいのです。新聞の写真を見て、あんまり似ているものだから、若しやと思って、お伺いしたのです。あなたがこの事件に関係していらっしゃることはよく知っていましたし、それに僕はあなたの小説の愛読者だものですから、警察よりはこちらへ御伺いする気になったのです」