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きょうふおう

恐怖王

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页

青空文庫

それは縁側の雨戸が一枚あいていて、その中に蝋燭が一本、ションボリとともっているのであった。蝋燭の赤茶けたほの暗い光が、闇に慣れた目にはスクリーンの様に白く見えたのだ。

スクリーンに見えた理由はもう一つあった。その雨戸一枚分の長方形の中には、ボンヤリと人の姿があったのだ。

蝋燭が、焔を遠ざかる程段々薄れて行く丸い光で、その人物の胸から上を、浮き出す様に照らしていた。

「アッ、照子さん!」

鳥井青年は、思わず叫び相になって、やっと喰いとめた。

燭台のほのかな光にユラユラと揺れて、縁側の奥に坐っていたのは、まがう方なき布引照子であった。死んだ筈の恋人の姿であった。

やっぱりそうだ。照子さんは生きていたのだ。そして、僕が救い出しに来るのを待っていたのだ。照子さんの不思議な心の糸が、僕をここへ引きつけたのだ。

鳥井青年は、腋の下から冷いあぶら汗をタラタラ流しながら、泳ぐ様にして恋人の前に近づいて行った。

「マア、鳥井さん! よく来て下すったわね」

突然、蝋燭の赤茶けた円光の中の照子が、身動きもせず、表情も変えないで云った。

その様子が、本当に悪夢の中の様な気違いめいた感じであったけれど、青年はそんなことを疑っている余裕はなかった。