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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
相手の熱い呼吸が頬の産毛をそよがせた。
青年は、あぶら汗にまみれながら、ズルズルと悪夢の中に引ずり込まれて行った。何となく気違いめいて不気味に耐えなかったが、無論抵抗する気持はないのだ。
「ホホホホ、鳥井さん。分って? この意味が」
やっとしてから、闇の中に、ほがらかな笑い声が響いた。
「ア、その声は? あなたは誰です。照子さんではないのですか」
グッタリと倒れていた鳥井青年が、愕然として闇の中に目をみはった。することも、云うことも、照子とは思えなかった。それにあのまるで違った声。照子は全く気が違ったのか。でなければ、さい前からの闇の中の軟体動物は照子ではなく、誰か別の女だったのか。
「イイエ、照子よ。あなたの許嫁の照子よ。ホホホホ」
闇の中の声が又笑った。やっぱり照子の声だ。
「あたしね、いっそ、あなたを殺してしまい度いと思うわ」
その声と同時に、柔い蛇がスルスルと青年の首に巻きついて来た。
「およしなさい。サア、もう帰りましょう。お父さんやお母さんが、死ぬ程心配していらっしゃるのです」
と云いかけたその最後の言葉は完全に発音出来なかった。まきついた蛇が、段々力を加えて、息を止めてしまったからだ。