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きょうふおう

恐怖王

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页

青空文庫

だが「Kという字」の一言は聞捨てにならぬ。

彼はふとある事を感づいて、急な坂道を、高い石垣の上へ駈け上って行った。

「オイ君達何を云っているの? どこに字があるの?」

子供等に尋ねると、

「ワーイ、伯父さん自分でかいた癖に知らないのかい。ホラごらん、あれだよ、あれだよ」

指さす砂浜を見渡すと、人通りのない広い地面に、乞食の足跡と、蘭堂自身の靴の跡と重なり合って、目も遙かに、異様な曲線を描いていた。なる程、ここへ上って見ると、その足跡がハッキリとローマ字の形になっている。

さし渡し半町程のべら棒な巨大文字。その余りの大きさに、我が靴跡で描きながら、少しもそれと気づかなかったのだ。

Kyofuo ……やっぱり「恐怖王」の六文字だ。

ハテナ、さっきの空の煙幕が、地面に影を投げているのではあるまいかと、妙な気持になって、空を眺めたが、煙幕は已に溶け去って、そこには最早や何のくもりもなかった。

すると煙の文字が、地上に落ちて、そのままあの砂浜へしみ込んでしまったのかしら。流石の探偵小説家も、頭がどうかしたのではないかと、疑わないではいられなかった。

何という無駄な、馬鹿馬鹿しい、しかもずば抜けた賊の自己宣伝であろう。