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きょうふおう

恐怖王

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页

青空文庫

蘭堂はもう我慢が出来なくなって、伯爵邸を訪ね、久し振りで京子の顔を見、声を聞いた。

京子は、父伯爵の寝室の大きなベッドに寝ていた。まだ起きる程元気が恢復していないのだ。伯爵の寝室を選んだのは、そこが邸中で一番安全な場所だからだ。丁度京子の退院の日に、伯爵は二三日の旅行に出なければならなかったので、更に防備を固くして、書生の友達の腕っぷしの強い青年二人を頼んで、三人交替で寝室の入口に寝ず番をさせることにした。

蘭堂は病人を余り昂奮させてはとの気遣いから、京子が引とめるのを押し切て、寝室を辞したが、厳重な防備を見て、これならば如何な怪賊も手の出し様があるまいと、安心して引取った。

アパートに帰ると、又しても喜多川夏子が彼の部屋で待受けていた。

「京子さんをお見舞なすったのでしょ。先生、大丈夫ですか。賊は一言でも口を利いたら命がないって宣言しているじゃありませんか。危くはありませんの?」

彼女は、嫉妬半分、怖がらせを云った。

「イヤ、それは大丈夫ですよ。柔道の出来る書生が三人で、寝ずの番をしているのです。しかも部屋は一番奥まった寝室で、ドアの外には一つも出入口のない安全至極の場所です。