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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

聟どののほうは、何もそういうことは頓着ないほうであるし、

(体さえ持ってゆけば)

と、簡単に考えていたが、先の浅野又右衛門夫婦は、それではすまないのであろう、型のごとく文初めの使いをよこしたわけである。

「さ。なんと書いて遣ろう」

藤吉郎は筆を持って当惑した。

文事に深く身を入れたということもないが、村の寺小僧にやられているうち、また、茶わん屋に奉公中にも手習いだけは人並にしているので、そう人前に出せない悪筆とも自身卑下はしていない。

ただ文言に困ったのである。

そこで彼はこう書いた。

よろしき夜にて候

聟どのも、ほどなくまいり語らうべく

先はかしく

書いて、それを持って、

「お内儀、お内儀」

硯筥を取ってくれた近所の細君へ示してたずねた。

「これでいいんでしょうか」

細君はおかしがって、

「いいでしょ。多分」

「あなただって、今の御主人からもらったことがあるんでしょ。覚えていませんか、その時の文句を」

「わすれましたね」

「はははは。当人が忘れるようじゃあ、大したことではありませんな」

文使いが帰る。餅が搗けたという。立ち振舞に、餅をたべる者と酒を酌む者とが、一つ座にあつまって、聟どのを祝ぎ囃したりする。