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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
一町人の経営といえども、そんな甘やかされた生涯があるものではありません」
「そうか。そちの眼にも、信長の面がそう見えたか。馬腹、一鞭当てねばならんな。――藤吉郎、身仕度せい」
「えッ、身仕度して?」
「岐阜へ帰るのだ」
自分の考えは、信長を超えていると、密かに誇っていると、信長の思慮はまた、自分の思慮の先へ出てくる。
急遽、岐阜の本城へ帰る必要はある。いろいろな意味で、それは急を要する。
(――が、どう帰るか?)
その方法を疑っていたが、信長は、空想家であるかと思うと、強力な意志の実行家でもある。
その晩のうちに、藤吉郎その他、わずか三百にも足らぬ小勢をひきつれ、夜どおしかけて京都から脱出してしまった。
疾風の迅さだ。そんな迅速な行動すら、もう誰からともなく洩れていた。
一行が、大津越えにかかる頃である。まだ短夜も明けない逢坂山の木立の上に、鉄砲を構えて、信長のすがたを待っている怪僧があった。
不意に、駒が狂い出した。
暁闇をつんざいて、鉄砲の音がどこかで響いたのである。
「――あッ?」
駈けつづく家臣達は、すぐ信長の身を気遣った。同時に、眼を四方に馳せて、