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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
「さ、こちらへ」
あとに従って、藤吉郎は奥の大広間にはいった。
満座の眼が、すべて彼にそそがれた。
酒気、堂にみちている。
もとよりみな甲冑のままだ。しかも、死を寸前に決している人たちである。ともに死ぬ仲間であればこそ、同じ覚悟をすえている戦友であればこそ、和気あいあい、散り際の花のそよぐが如く、歓を尽しあっていたのであるが――咄嗟に、
「敵人!」
と、藤吉郎の顔にあつまった眼というものは、たいがいな者ならば、身の竦んでしまうほど、鋭い血走った眼ばかりであった。
「やあ、ごめんを――」
誰へともなく、藤吉郎は、こう大きくいったものである。
そして、それを会釈に、つつつとすすんで、長政を中心に、浅井一族のぎっしりとかたまっている上座のまえへ出て平伏した。
「それがしにまで、お杯をくださるとの仰せ、ありがたく、まかり出でました。なお、御幼少なお嫡男、お三人の姫さまたちのお行く末については、藤吉郎、身にかえても、お護りいたす所存にございますれば……畏れながら、それについては、いささかのお心残りも遊ばさぬように」
ひと息に云った。
もし、間を措いて、恟々などしていると、あたりの鋭い白眼が、たちまち酒気と敵愾心に駆られて、何をやり出すかも知れない――実に、間髪の危機といってもいい、殺気のなかに彼はいたからである。