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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

「ああ、うまい」

大まかに、彼は飲んで、掌のうえの茶わんを、しばらく眺めていた。

「これは横山城の庭で、於福が焼いた茶だな」

「左様でございます」

侍臣は答えた。

秀吉は、とつこうつ、茶※(「怨」の「心」に代えて「皿」、第3水準1-88-72)の裏を返してみたり、また下に置いてその姿など見入りながら、

「……。何となく面白い。やはりあの男にはあの男の天分があるとみえる。於福を呼べ、於福を」

と、急に何か思いついたらしく、やがて湯殿番の於福が、恐る恐る前へ来て坐るとすぐ、

「そちは今日から湯殿番はやめろ。どうもそんな職分は、そちの天性でないらしい」

と、いった。

於福は、小心な眼をみはって、秀吉の顔を仰いだ。

何か粗相でもして、役目を取りあげられたようにでも考えたらしい。気の弱い眼にすぐ涙をいっぱい溜めた。

「はて、おかしな男、何を悲しそうにするか。わしは叱言をいったのではない。そちの天分をふと見つけたから、忘れぬうちに、そちに将来の行く途を与えてやろうと考えたのだ。硯を持って来い」

「はい」

小姓が立って、すぐ前におくと、秀吉は懐紙をとりあげて、無造作に、さらさらと手紙をかいた。