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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

信長は、屹と見て、

「ここだ。この山の天嶮に非ず、この山の特権こそ、信長の敵である」

と、心に宣言した。

彼は、革めて思った。――源平のむかしから今にいたるまで、歴代の朝廷におかれても、心ある為政者も、革新を図る英雄も、無数の民も、どれほどこの山の伝統と特権に苦しめられ煩わされて来たことか――と。

「この山のどこに、真の御仏の微光でもあるか。国家の鎮護たる大本があるか!」

信長は、満腔の怒りを、心に抑えつけながら心で叫んだ。

唐の天台山をここに移して、開山伝教大師が、

阿耨多羅三藐三菩提の仏たち

わが立つ杣に冥加あらせ給え

と、五台四明の峰に法の灯をともしたのは、神輿をかついで朝廷へ嗷訴するためだったか。政治に容喙して特権を逞しゅうするためだったか。武力とむすび権門を使嗾し、世を紊すためだったか。――峰谷々に、法体へ甲冑をつけた化け物を蓄えて、槍、鉄砲、旗さし物を、全山に並べるためだったか。

「…………」

信長の眼には、憤りから滲みわく涙が沸った。

思え。外道。

叡山は、国家鎮護の霊場として、初めて、その特権も伝統もあるのである。

その本来のものは今、叡山のどこにあるか。