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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

秀吉は、長秀に命じて、味方の諸砦へ、次のことを伝達させた。

――予は、丑の刻(翌二十日午前二時)より、玄蕃の急追撃にかからん。

――土民をも聚めて、黎明とともに、各山上において、大喊声を発せしめよ。

――夜、曙けんとするや、一斉の銃声あるべし。まさに、嚢中の敵を一掴の機、そのときにあり。

――未明の銃声は、敵のものと心得てよし。総がかりには貝合図あるべし。機、外すことなかれ。

丹羽長秀が去るとすぐ、秀吉も床几を払わせ、

「玄蕃は落ち退いたりと申すぞ。玄蕃の退き道を、ひた追いに尾けて、無二無三、追いつめよ」

と、馬廻りの士をもって、全軍へいわせた。

「夜の白むまで、鉄砲撃つな――」

それも心得させた。

坦々たる街道とちがい、折所の多い山道である。進撃先鋒は、続々、動き出したが、意の如く進めない。

中には、馬を降りてみずから曳き、互いの腰を押し合って、道もない沢や崖を踏みこえて行く隊もあった。

夜半過ぎからは、いとど中天に冴えて見えた二十日月は、佐久間勢の退路も扶けていたが、急追撃を思う秀吉麾下の将士にとってもまた絶好な明るさだった。

両軍の距たりは、その序戦行動に入った時間から見ると、約三時間の差でしかない。