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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

静林

「山路、これを見よ」

と、悉く磔にされ、羽柴方の兵に、どっと、嘲い囃されたのであった。

きょうの決戦に、彼が脆かったのはむりもない。彼が得たものは、彼の迷いとは、正反対なものだった。

静林

陽は高くなった。

この日は、初夏の爽風もなく、殊に照りつけて、暑かったらしい。

柴田勝政が戦死し、幕将の多くも、途々惨として、屍を並べてしまった結果、爾後、柴田勢が大幅な潰乱状態となり終ったのはいうまでもない。

「外すな。――離すな」

追撃の羽柴勢は、これ一点張りであった。地勢もまた追うによき降り一方へかかっていた。

陽あしは、辰の刻(午前八時)頃かと見られる。

余吾の西岸で、また一合戦あったが、柴田勢は、踵もつかず、ふたたび奔って、茂山、足海峠の辺へまとまった。

ここには、前田利家父子が、旌旗しずかに、陣していた。

まことに、静かである。

今暁来、彼は、大岩、清水谷、賤ヶ嶽にわたる火花と銃撃とを、ここの床几から静観していたにちがいない。

もとより彼は、柴田勝家の一翼と恃まれて、ここに展陣していたものの、その心懐と、本来の位置とは、実に微妙な立場に置かれていた。――一歩、誤れば、領土一族、一切は亡い。