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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
09 第九分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页
路上で、相次いで斃れ、その首級を、堀隊、小川隊、黒田隊、藤堂隊などの羽柴方の勇士の手に克ちとられたことは確報にちがいなかったが、誤報については特に、
「大将勝家と見えたるは、偽首にて、北ノ庄の小姓頭、毛受勝助の身代りに立てるものにて候う」
と、秀吉の前に堀久太郎秀政自身、釈明に来た。
秀吉は、その首を見た。
面頬は脱られている。――勝家とは似せても似つかぬ白皙明眉の若者の首級である。
「主の馬印を乞いうけ、勝家なりと名乗って死んだか。……涼やかな死に顔よの」
秀吉は惚々と見入っていた。首級の若い唇は、紫いろを呈していたが白い歯なみを少し見せ――君、君タラズトイエ臣、臣タリ――の義をつらぬいた本懐を自ら微笑んでいるようだった。
毛受勝助家照の名は、よほど秀吉の脳裡に感銘を与えたものとみえ、後、彼が越前に軍を進めて、その平定を見た日、勝助の母と、毛受家の縁類をたずねさせ、それに鄭重な慰問を送り、かつ扶養の約を与えたということである。
彼の戦下行政は、いや自然に振舞う事々は、常に情義本位の政道になっていた。もとより政策の軌道は理念を基調とはしているが、表わるるところは、ひとりでに彼の性格を加えて、情念を主調とし――また物に、道義を骨胎とし、道義をもって、法治賞罰の鑑とする――戦下行政をおのずから布くのであった。