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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

よほど欣しかったとみえ、勝家は本丸に通ってからも、父子の無事を祝して、

「このたびの敗れは、すべてこれ、儂の落度にほかならぬ。御辺にも、累を煩わしたが、ゆるされい」

と、率直に詫び、

「――ともあれ、北ノ庄まで落ち行いて、心措きなく始末、きれいに、所存を遂げたいと思う。……この上の御造作じゃが、湯漬を一椀、馳走して賜わるまいか」

さしもの鬼が、仏柴田となったようなことばである。

利家も、涙なきを得なかった。――子息をして、

「すぐ、お湯漬を持て。いうまでもない、一献、何はなくとも共に」

と支度をいそがせ、さて、慰めることばもなかったが、

「よくいわれることですが、勝敗は兵家の常。きょうの御無念は万々お察しされるものの、大きく、宇宙の輪廻から観れば、そもそも、勝つも驕れば亡ぶ日の一歩、敗るるも徹すれば勝つ日の一歩。――興亡の流転、一朝の悲喜のとおりではありませぬ」

などと他事なく語りかけると、勝家ははや利家のいわんとするところを悟って、

「さればよ、惜しいのは、朽つるなき、流転の移りなき、名のみではある……が、又左殿、安んじておくりゃれ。決定はつけておるで」