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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

御分別よろしくあれや」

彼のこの言葉は、利家にたいする最後のものとして、彼の最大な好意と、今日までの感謝をあらわしたものにちがいない。

馬上の顔は、いつわりなくそれを表情していた。利家は、

「恐れ入る」

と、その心にむかって、心から辞儀をした。

城門を出る勝家の影を、夕陽の赤さは特に濃く浮かせてゆく。馬上の供八騎、歩卒十数名という微々たる残軍の列はこうして北ノ庄へ落ちて行った。

利長は、父のいいつけなので、勝家の馬の口輪を取って従い、勝家が幾度か、

「もうよい。お帰りあれ」

と、気のどくがっていうにもかかわらず、万一の変を思って、府中の町屋端れまで、送って来た。

途中、勝家は、城下町の新屋敷など見て、

「ここも、お許の治政で、見ちがえるばかり繁昌になって来たの。軍もむずかしい、領治のむずかしさは格別、父上にお習いなされよ。勝家にお倣いあるな」

と、さりげない馬上からの四方山ばなしをしかけたり、折々、戯れをいって、利長を笑わせたりして行った。

城下端れまで来たので、利長は口輪を供の者に譲り、

「ごきげんよう。……では、ここにて」

と、別れて帰った。

父は、勝家の去った本丸の一室に、寂として、独り坐っていた。