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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
09 第九分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页
そして、心ゆくまで、名残を惜しまれよと、折々ここへ情況を告げていたのである。
その若狭守の声だった。――それへ来たのは何者か、と室外で咎めている。答える者のことばには、新五郎でございまする、と聞えた。するとふたたび若狭守の声で、
「やっ、伜かっ……。参ったるか……」
と、いうのが聞えた。何か烈しくうけた感動を、抑えきれないような様子が、目に見ぬ室内の人々までハッとさせた。
「父上っ。……参りました」
次のことばが聞えたとき、酒席の杯は、悉く下におかれていた。
(はて。誰であろう?)
みな、眼と眼を見あわせた。勝家も、きき耳たてているふうだった。
――が、まもなく、静かな跫音が室のすぐ外まで来ていた。小島若狭守は自分のうしろに、ひとりの若者を連れていた。その若者のかぼそい武者姿を見たとき、勝家以下みな、ふたたび眼をみはってしまった。なぜならば、若狭守のうしろに見えたのは、久しい間、病身のため出仕もならず、家にあって療養していたため、誰の記憶にもいまは忘れられていた――若狭守の一男、当年十八歳の小島新五郎にちがいないからであった。
「おねがいにござりまする」