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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

、いかに高く生き輝かんかの相貌であって、一顰一笑悉く神変の意をふくむもの。軽々しく、某家の風はかくの如しとか、何々家の陣容はかかるものなりとか、一度や二度使者に臨んだとて、めったな推定を掴み帰り、これを主君や自藩の家中に吹聴するのは、まことに危ないことであるばかりでなく、時には自己の主をして過らしむる不忠とならぬ限りもない。凡小井蛙の眼孔をもって、軽々な取沙汰は慎むべきであると――苦々しくたしなめる老武者もあった。

(使者というものは、鈍にも卑屈にもなれる者でのうては出来ぬ)

柴田家の一行は、今度という今度、まことに後味のわるい帰路を味わった。

家康からは、勝家にたいし、遂に、土産になるほどなことばもなかったのである。

自分らが冷遇されたことはともかく、

(よろしく)

という一言すらなかったなどとは主人に報告するにもしかねる。

殊になお、勝家から家康へ宛てた懇篤なる書翰にたいしても、

(いずれ……)

とのみで、返書はついになかったのである。要するに、今度の使節は、まったく無効果に終ったのみでなく、何となく、家康の鼻息前に、勝家自身、自己の心事を必要以上、卑下したような形になってしまったことは否み得ない。