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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

「なんの、百姓の母じゃがの……」と。

――庭面は暗くなってゆく。残雪だけが暮れ残る。小島のように飛々に白い。

老母と寧子とは、雪と土とを根気よく掻き掘じっていた。求める蕗のとうの一ツでもと、祈りに似る気持で捜していた。

「寧子よ。ないのう」

「いまに……ありましょう」

「まだ早過ぎるのであろ。もうすこし春もさきにならねば」

「けれど、なければないほど、それは貴うございますから」

「そなたもそれを知るか」

老母の影は、ふと腰を撫でていた。そして、わが影に添う影を顧みていった。

「のう。――たとえ海ほど山ほどの馳走を盛ろうと、もしそれが、心の副わぬものであったら、何のことはない、人は物に、たばかられているようなものに過ぎない」

「わが良人のお嫌いも、心の副わぬ、物だけの、物脅しでございました」

「さればよ。また、いつものむかし語りじゃが、わしもあの子も、尾張中村にいた頃は、或る夜は、一握りの稗だに無うて、ただの湯に味噌を落して飢えをしのぎ、寒夜をわなわな抱きおうて、母子して過ごしたこともある。――極道なあの子の義理の父親が、幾日も家をのぞかぬため、あわれ物乞いにもなりかねて、人様には人なみに喰べた顔を装いながら、飯つぶはおろか、塩気を溶いた湯のほかは、あの子の腹に糧らしい糧の入っていない日が、ああ、それはもう、幾日幾日もあっ