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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

「はっ。……あ、ありがとうございまする」

金五郎は、意外な恩に、度を失ったものの如く、へたと、雪の中に坐ってしまい、両手にそれを押しいただいて、

「雪を分けて、手ずからお採り遊ばした物を。……勿体ない。父は、何たる冥加者でございましょう」

若い声もわなわな顫え、いつまでも感泣している様子だった。

城楼で刻の太鼓が鳴った。こよいに限り夜空もあかあかと篝が照り映え、今朝の初日の出がまだ沈みきらずにあるようだった。

寧子は老母の手を扶け、先へ立つ明りと、侍女たちの影はそれを囲んで、やがて暖かな大殿の内へ戻って行った。

瀬尾金五郎も、持役の中門へ帰った。だが、ふところの蕗のとうが萎えてはと、明朝までの置く所に迷っていた。

同役の話合う侍小屋の壁に、小さい神棚が吊ってある。その御榊のそばへ、彼の背伸びした手がそっと白い紙包みをのせていた。

「瀬尾。何じゃそれやあ?」

同役の四、五人が怪しんでたずねた。金五は答えず、しばし掌をあわせてから、彼らのいる炉ばたへ来た。

同僚は非番である。餅を焼いていた。金五は非番でない、炉へ寄って来たものの、すぐ立つ構えをしていた。