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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

みな領民には見覚えのある人たちである。

「寒いのに」

秀吉のそういった片語だけが、ふと、土下坐の上に聞えた。

(私たちのことを思いやって下されたのだ)

領民は直感した。せつな、一しお頭が下がって、町と道のつづく限りつづいている土下坐の人影は、靡くがごとく、なおひれ伏した。

「どの家の鏡餅も、大きゅう出来ておるよ」

これも秀吉の声だった。町中に馬蹄の音もゆるく大股に運ばれていた。

地へ垂るる慈眼と――

仰ぐ無数の信頼の眼と――

この場合、二者は完全な一者だった。別体でなく、同体である。もし別々であれば、この光景は地に描けない。驕りと卑屈との対立から、平等に名を藉る闘争や、際限なき人間の欲望の葛藤が、永劫に血で血を洗いはじめるであろう。

真の平等は、形に作られた平面にはない。儼たる上下にある。ことばの如く、上下が真の一体一者になったときにある。

侍――さむろう――下坐に着く――武士の本質もさむろう下坐の姿にある。その武門の棟梁に下坐する民も、強いられてするのでなく、われからする信頼と安心の姿なのである。

こよい、秀吉を仰いで、涕涙している老人も少なくない。