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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

それは、御杞憂にすぎないかと存ぜられます」

徳山則秀も、それに同意して、

「御主君と又左殿との間には、今日までの長い戦陣中にも、まだただの一度でも、御不和の見られた例はありませぬ。――むかし清洲の若ざむらい仲間に、犬千代といわれた頃の前田どのは、名うての乱暴者で聞えていた人でしたが――変れば変るもの、近頃は、律義人といえば、又左どのか、実直人といえば、前田どのかと、すぐ人も頷くほどに信ぜられておりまする。されば、このたびのお使いには、むしろ打ってつけの適任者ではござりますまいか」

「……なるほど」

そう聞けば、そういう気もしてくる。勝家は、自分の迷いを、迷いに過ぎなかったかと、その後では笑った。

しかし、この一策にして、もしまずい結果にならんか、事態は、急悪化する。しかも、雪国の軍は、明春まで、動かせないとなると、何よりは、岐阜の信孝の孤立化と、伊勢の滝川の分裂などが、大きな不安となってくるのであった。

故に、この使いは、重大中の重大だった。そのうちに、日ならずして、前田利家は七尾城からこれへ来た。

又左衛門利家は、左眼がつぶれている。これは若いときからのものだ。